妊婦さんが特に気をつけたい細菌「リステリア菌」 もし感染したら赤ちゃんはどうなる?

妊娠中は、お腹の赤ちゃんのために「食べるもの」にいつも以上に気を配ることがたくさんありますよね。食中毒のリスクについても、気になることの一つかと思います。数ある食中毒の原因菌の中でも、妊婦さんが特に注意すべきと言われているのが【リステリア菌】です。

健康な大人が感染しても軽い症状で済むことが多いリステリア菌ですが、なぜ妊婦さんは注意が必要なのでしょうか?今回は、もし妊婦さんがリステリア菌に感染したらどうなるのか、赤ちゃんへの影響を中心に、そして最も大切な予防法について詳しくお話しします。

 

 

リステリア菌とは?なぜ妊婦さんが注意する必要があるの?

リステリア菌(Listeria monocytogenes)は、土壌や水、動物の腸管など自然界に広く存在する細菌です。主に、リステリア菌に汚染された食品を食べることで感染します(リステリア症)。

健康な大人の場合、リステリア菌に感染しても無症状で経過したり、軽い風邪のような症状(発熱、筋肉痛、だるさなど)や、まれに胃腸炎のような症状(吐き気、下痢など)が出る程度で済むことがほとんどです。

しかし、妊婦さん、高齢者、そしてエイズやがんなどで免疫力が低下している人は、リステリア菌に対する抵抗力が弱まっているため、菌が体内に入ると血液を通じて全身に広がりやすく、重症化するリスクが高い特性があります。特に、妊婦さんがリステリア菌に感染することは、お腹の赤ちゃんにとって深刻な影響をもたらす可能性があるため、細心の注意が必要です。

 

もし妊婦さんがリステリア菌に感染したら、赤ちゃんへの影響は?

リステリア菌が妊婦さんにとって最も危険視されるのは、その菌が胎盤を通過して、お腹の赤ちゃんに直接感染してしまう可能性があるためです。お母さんの症状がたとえ軽かったとしても、赤ちゃんには重い影響が出る恐れがあります。

赤ちゃんへの主な影響

  • 流産:特に妊娠初期に感染した場合、流産のリスクが高まる可能性があります。
  • 死産:妊娠後期に感染した場合、赤ちゃんがお腹の中で亡くなってしまう可能性(死産)があります。
  • 早産:感染によって陣痛が誘発され、赤ちゃんが予定日より早く生まれてしまう(早産)可能性があります。
  • 新生児リステリア症:生まれてきた赤ちゃんが、肺炎や髄膜炎、敗血症(全身に菌が回る状態)などの重い感染症にかかっている状態です。出生後すぐに症状が出ることもあれば、生まれて数週間経ってから発症することもあります。重篤な後遺症が残ったり、最悪の場合は命にかかわったりする可能性もあります。

このように、リステリア菌がお母さんの体内で増殖し、胎盤を通じて赤ちゃんに移行してしまうと、赤ちゃんの発育や生命に関わる非常に危険な事態を引き起こす可能性があるため、妊婦さんはリステリア菌感染の予防を徹底することが非常に重要なのです。

 

お母さんの症状はどんな感じ?気づきにくいことも…

先述の通り、リステリア菌に感染したお母さんの症状は、発熱、筋肉痛、だるさなど、風邪やインフルエンザのような症状であることが多いです。吐き気や下痢といった胃腸症状が現れることもあります。

これらの症状は、妊娠中に起こりやすい他の体調不良(つわり、風邪など)と区別がつきにくいため、リステリア菌感染だと気づかずに見過ごしてしまうケースも少なくありません。気づかないうちに感染が進行し、赤ちゃんに影響が及んでしまうリスクがあることも、リステリア菌の怖い点の一つです。

 

最も大切なのは「予防」!感染を防ぐためにできること

リステリア菌感染が分かった場合、抗生物質による治療が可能ですが、赤ちゃんへの影響が出てしまってからでは治療が難しかったり、後遺症が残ったりすることもあります。そのため、何よりも「感染しないための予防」が非常に重要になります。

 

リステリア菌感染を防ぐための具体的な注意点

  • 加熱が必要な食品は中心部までしっかり加熱する:肉、魚介類(生がきなども含む)は、中心部まで十分な温度(目安として75℃以上で1分以上)で加熱しましょう。
  • 生ハムやスモークサーモンは避ける、または加熱して食べる:これらの製品は製造過程で加熱されていないため、リステリア菌が付着している可能性があります。妊娠中は避けるか、調理に使用してしっかり加熱しましょう。
  • 未殺菌の乳製品やナチュラルチーズは避ける:「殺菌済み」と表示されている牛乳や乳製品、チーズを選びましょう。特に、海外製の柔らかいチーズには未殺菌のものがあるため注意が必要です。プロセスチーズや、製造過程で加熱されているカッテージチーズなどは一般的に安全とされています。
  • 生野菜や果物は食べる前によく洗う:土などが付着している可能性があるので、流水でしっかり洗いましょう。
  • 調理済みの食品にも注意し、購入後は期限内に:パック惣菜、サラダ、カットフルーツなど、製造過程や保存中に菌が付着している可能性もゼロではありません。購入後は表示されている期限を守り、早めに食べきりましょう。可能であれば、食べる前に再度加熱するとより安全です。
  • 冷蔵庫を過信しない:リステリア菌は、多くの細菌が増殖できない冷蔵庫の温度(4℃以下)でもゆっくりと増殖する特性があります。食品を詰め込みすぎず、清潔に保ち、長期保存は避けましょう。
  • 調理前後の手洗い、調理器具の洗浄・消毒を徹底する:基本的な衛生管理が食中毒予防には欠かせません。

 

 

もしかして?と思ったら…すぐに医療機関へ相談を

もし妊娠中に、発熱、筋肉痛、だるさなど、風邪やインフルエンザのような症状が出た場合、軽症でも自己判断せず、すぐに産婦人科や病院に連絡して相談することが非常に重要です。

特に、生ものや加熱不十分な食品など、リステリア菌感染のリスクが考えられる食品を食べた後にこれらの症状が出た場合は、その旨を必ず伝えましょう。早期にリステリア菌感染を疑い、検査を受け、必要であれば適切な治療(抗生物質の投与など)を迅速に開始することが、赤ちゃんへの影響を最小限にするために何よりも大切です。

リステリア菌は、健康な大人にはあまり問題にならなくても、妊娠中のお母さんにとっては、お腹の赤ちゃんに重い影響を及ぼす可能性のある、注意が必要な細菌です。

お母さんの症状が軽くても赤ちゃんに危険が及ぶことがあるため、何よりも「感染しないための予防」が非常に重要になります。生ものや未殺菌の食品を避ける、食品をしっかり加熱する、衛生管理を徹底するといった対策を日々の生活に取り入れることで、リステリア菌感染のリスクを大幅に減らすことができます。

過度に怖がる必要はありませんが、正しい知識を持って、安全な食生活を心がけましょう。もし体調の変化で気になることがあれば、迷わずかかりつけの医師や助産師さんに相談してくださいね。あなたの安全と、赤ちゃんの健やかな成長のために、できることから取り組んでいきましょう。